考察

【筋肉を意識すると効率良くペダリング出来るのか?】

 

「大きな大殿筋を使って踏み降ろし~腸腰筋で引き上げて~」

 

これらの雑誌などでよく見かける情報は僕がロードバイクに乗り始めた2002年頃~今まで内容はほとんど変化していません。

※おそらくもっと昔から

変化しないのは真実だから?と単純なことではありません。

そこから一歩進んだ発見が広まっていないからです。

 

筋肉は使う部位を意識することでより効率的に鍛えられることがウェイトトレーニングでほぼ証明されていますし試せばすぐに実感することが出来ます。

 

しかし局部的な筋肉をより効率的に鍛えられるということは特定の部位の疲労が溜まりやすくなるのと同じことでもあります。

 

大殿筋や腸腰筋を意識した動きでは他の筋肉が協調しにくい状態になっています。

果たしてこれが効率の良い動きと言えるでしょうか?

 


【フィッティングで本当に速くなれるのか?】

・フィッティングに対してこれらの懐疑的な意見を聞くことがあります。
「体の使い方が変わらないとポジションを変えても意味がない」
「新しいポジションの筋肉がつくまでに時間がかかるので弱くなる」
「効率が良くなっても強くはならない」
「単なるプラシーボ効果なんじゃないか」
ある意味ではその通りだと思う部分もあります。
特に体の使い方が変わるには数ヶ月間かかると思います。

・フィッティングが「いつ?」「どのように?」「どれぐらい?」パフォーマンスに影響を与えるのかが知りたくて、フィードバックを頂いているお客様からフィッティング直前直後のパワーデータを送って頂きました。

・30秒全力走
MAXパワー:489W→554W
平均パワー:403W→433W
ペダリング効率:51.9%→52.8%
左右バランス:52:48→50:50

・20分ペース走
平均パワー:154W→162W
ペダリング効率:44%→51%
左右バランス:56:44→52:48

・30秒全力走ではパワーが大きく向上し20分ペース走では効率が大きく向上していました。
特に右脚側のパワーと効率が向上しています。
しかも測定日の前後約1週間は影響が出ないようにトレーニングをしなかったそうです。

結論:フィッティングは短期的にもパフォーマンスに大きな効果が現れる場合があるという事がわかりました。
ベクトルにあまり変化ないという所から体の使い方自体もまだそれほど変化していないという事が予想できます。
より推進力になるペダリングが出来るようになるためにトレーニング方法や機材的な部分にも大きな改善点も見つかり取り組んでいる最中なので今後に更なる向上が期待できます。

 

※ダウンストロークのベクトルが斜め後ろ方向ですがペダリングモニターのキャリブレーションがズレていました。


【効率の良いペダリングとは?】

誰もが疑問に思っている内容だと思います。
効率といっても様々な要因があるのでいくつかを紹介したいと思います。

 

・パイオニアのパワーメーターの数値に表れる効率の良さとはペダルを踏んだ力が推進力にどれぐらい関与しているかどうかで判断しています。
推進力になるペダルへの力というのは円の軌道方向に対して0度以上~180度未満までなので、変換効率が1%でも100%でも推進力になったとデータ上では表示されます。

 

・ペダルに力を加える角度の差でどれぐらい変換効率が変わるのかという研究ではペダルに対しての入力角度は90度が最も効率が良く100%の変換効率でした。
60度では87%
30度では50%
0度で0%という結果でした。

 

・以上の結果から最高に効率の良いペダリングとは完全な円運動ということになるわけですが、人体の構造はそのように動けるようには出来ていないので、体の構造に合った方法で高い変換効率を出せるペダリングの方法は限られてきます。
フィッティングではここが最重要となってきます。

初心者向けのアドバイスでよく耳にするのは、
ペダリングは円を描くように
上死点でペダルを前に押し出すように
下死点ではペダルを後ろに蹴るように
腸腰筋やハムストリングスを使ってペダルを引き上げるように
などなどです。

 

これら4つのアドバイスは比較的ゆっくりしたペダリング動作ならば有効ですが、ペダリング効率を考えた時に最優先な部分である下方向への入力が疎かになってしまう傾向があるので高回転&高出力を求める場合は円を描く意識をしない方が上手くいきやすいです。

人の体というのは下方向に対しては素早く大きい力が出しやすく、前後や上方向への力はあまり強くありません。
バロックギアなどの楕円形のギアはその人体の特性からヒントを得て作られました。

 

楕円ギアの効果に関しては賛否両論ありますが、元々上下の死点では力を抜き3時で下方向に踏むペダリングが出来ている人からすると効果を感じにくく、上下の死点で力を入れる意識でペダリングをしていた人からするとトルクが変動するので回しにくく感じる。
効果を実感出来た人というは楕円ギアによってペダリング動作(体の動き)が改善された場合です。

 

よって取り付ければすぐに効率が良くなるようなパーツではなく、効率の良い動作を習得するために使いこなそうという意識がある方向けのパーツです。
トレーニング機材という分類に近いかも知れません。


【関節の角度にも効率が存在するのか?】

ウェイトトレーニングの研究では結論が出ているようです。

 

バーベルスクワットの例では浅い屈伸のクウォータースクワットと腿が地面と水平になるまで屈伸するパラレルスクワットではクウォーターの方が約2倍の重量を持ち上げることが出来ます。
これは筋肉は太いほど重いものを持ち上げる事が出来るのと同じ理屈で、関節が深く曲がるほど筋肉は引き伸ばされて細くなりますのでトルクが低下するというわけです。

 

逆にパラレルスクワットの方は人体で最もパワーの出る大殿筋等の股関節伸展筋群を使う割合が高まります。
【図3】は膝が爪先より前に出てしまっているので大腿四頭筋の負荷が高まっている悪い例ですが、膝を爪先より前に出さないフォームでは股関節の動く角度が大きくなります。

 

まとめるとトルクを出すならば脚が長いか狭い可動域を使う方が有利で、大殿筋等を狙ってパワーを出すならば脚が短いか広い可動域を使った方が有利ということになります。
※スムーズに動かせないほどの大きな可動域を使うことは関節に大きな負担になる為にあまりお勧めできません。

 

アワーレコード記録保持者やTTスペシャリストに大柄な選手が多いのはこのためです。
小柄な選手や手足の短い選手は身軽で瞬間的なパワーを出すのは比較的得意なので戦略的に戦えば十分に勝機があります。


【クランクの長さで効率は変化するのか?】

前回は可動域を狭く使ったほうが筋肉を太い状態で使いやすいためにトルクの面では有利という記事を書きました。

・股関節の可動域を狭くするために考えられる方法は「前乗りにする」「サドルを上げる」「クランクを短くする」の3通りです。
この内の「前乗りにする」「サドルを上げる」に関しては別の要素への影響もあり動かせる範囲がほぼ決まっていますので消去法で「クランクを短くする」という手段が最も可動域を調整するのに適しています。

 

・最大パワーのみに限定したクランク長さによる出力への影響を研究したアメリカの論文があります。
http://www.recumbents.com/…/Determinants%20of%20Maximal%20C…
結果は120mm~220mmの範囲でクランクの長さの違いがあっても最大出力に関してはあまり変わらなかったというものでした。
身体面の効率と機材面の効率(テコの原理)が相殺されているのでしょう。

 

・持久力や加速力に関してはデータがまだ無さそうなので僕自身(身長165cm股下71.5cm)が実際に試したクランク長135mm~172.5mmの範囲で傾向を一応紹介します。
(データが無いのであまりあてにならないかも知れません)
135mmは疲労しにくく一度乗ったスピードの維持が容易でしたが加速が鈍くダンシングがやりにくいのでトップスピードに到達しにくい。
150mmは直径が歩幅とほぼ同じなので違和感が少ない。
165mmはダンシングがしやすくより短いクランクに比べてトップスピードに素早く到達する事ができる反面速度の維持がやや難しい。
165mm以上はトップスピードに到達する前に失速しやすい。
結論:自分の場合は150mm~165mmの間に持久力と加速力のバランスが良い長さがある可能性が高い。

 

・フィッティングを受けたO様の場合
僕とほぼ同じ身長(約165cm)ですが手脚が長くクランクも172.5mmを使っていました。
骨盤を前傾させて踏むのを好むタイプの方だったので上死点で股関節が深く曲がりすぎてパワーロスに繋がっていました。
現状のフォームを大きく変えずにパワーロスを軽減するならばクランクを短くするという方法が一番お手軽なのですが、フォームやペダリングスキルの方を改善して現状の機材を出来るだけ使いこなしたいというご希望でしたので股関節の可動域に余裕の出るポジションを提案致しました。
ブラケットポジションではスムーズなペダリングが出来るようになりましたがドロップポジションではまだ少し上死点でのロス(マイナスベクトル)が発生しているので、今後のトレーニングでどこまでフォームや柔軟性が向上するか次第でクランク長さを再度見直す必要があるとお伝えしました。

https://www.youtube.com/watch?v=wvKs4Vl689I

 

・クランク長さについての考察は「どう使うかでベストな選択が変わる」というありきたりな結論に達しがちですが、現在は一般のアマチュアサイクリストでも手軽にパワーメーターの購入やフィッティングサービスやトレーニングサービスを受けやすい時代なので、練習と測定と分析を繰り返し行うことでより効率の良い機材の選択やフォームを見つけるのに役立ちます。


【私自身が今まで使ってきたインソールの個人的な感想】

ソールスターロード

利点・土踏まずの内側と小指側の両方が盛り上がっていて膝を内側にも外側にも捻れるのを防いでくれます。

膝が真っ直ぐに上下運動するのを助けてくれます。

欠点・土踏まず内側のサポートが外側に比べてやや弱いのでヘタってくると膝が内側に捻れやすくなります。

※カーボンモデルは使った事が無いのですがその点が改善されているかも知れません。

 

スーパーフィート
利点・踵の骨を地面と垂直に矯正する事で膝を曲げたときに内側に捻れるのを防いでくれます。
知識があれば自分でセミカスタムも出来ます。
欠点・踵の骨の歪みが大きい人には違和感がかなり強く出るので慣れる前に使いたくなくなります。
その場合は膝が外側に捻れて膝や腰の痛みに繋がることも。

 

スーパーフィートカーボン
利点・ノーマルモデルに比べて矯正力がマイルドで薄手。
利点であり欠点・踵が左右にかなり自由に動きます。

 

成形タイプやセミカスタムインソール
利点・履き心地がとても良くなります。
欠点・癖もそのまま残る事になるのでその場合は緩やかに悪化していきます。

 

土踏まずサポートタイプ
利点・安いです。※例外あり
欠点・土踏まずが潰れるのは踵の骨の曲がりや足底筋の筋力の低下なので土踏まずを裏から支えても意味が無い上に、疲労してアーチが落ちてくると土踏まずを圧迫して痺れや痛みが出てきます。(成形タイプも同じ)


【ロードバイクでの筋力向上をどう行うか?】

 

ロードバイクで筋力を向上させる目的のトレーニングではSFRが有名です。

方法はケイデンスを40~60回転/分という重いギアで坂道を走るというものですが、運動の長さや強度によってどのような効果の違いがあるのか調べたというデータは今の所まだ見たことがありません。

 

ウェイトトレーニングでは連続して持ち挙げられる限界の回数をRM【レペティション マックス】と言います。

 

例えば100kgのバーベルを6回連続してギリギリ持ち上げられる場合は6RMです。

6回連続して持ち上げてもまだ余裕がある場合はRMではありません。

筋力や筋肥大を効率良く向上させるには1セットで限界近くまで追い込む必要があります。

 

どれ位のRMでトレーニングをすると筋力や筋肥大が向上しやすいのかという研究も進んでいて、現在は6~12RMくらいが効率が良いというデータがあります。

12RM以上の軽めな重量でも筋肥大はするのですが筋力はやや向上しにくいそうです。

 

ウェイトトレーニングの理論をSFRに当てはめるとクランクを6~12回転させると筋肉がオールアウトする強度が最も効率が良いという事になるのですが、自転車は加速すると惰性が発生して筋肉への負荷が減少していくという特性があるので狙った回転数でオールアウトさせるのはかなり難しいです。

 

よってロードバイクで筋肉をオールアウトさせるには1セットあたりの強度を適正にするためにもう少し時間を長くするかセット数を増やす方法が考えられます。

 

セット数についてもトレーニング効率の違いが研究されています。

初心者であればオールアウト×3セット。

中級者からは体調に応じてオールアウト×3~6セットがトレーニング効果が高いそうです。

個人差もあるそうですが6セット以上になると疲労度が高くなりすぎて長期的に見ると練習量が減ってしまい効率が悪くなるそうです。

 

総括するとロードバイクで筋トレをするならば1セットでオールアウトする強度と長さで3~6セットのSFRを行うと効率が良さそうというです。

力をどれぐらい絞り出せるフォームかどうかにもよりますが30秒~2分くらいといった所でしょうか?

まだまだ考察の余地がありそうです。


【クイックトレーニングの可能性】

 

一般的なゆっくり動く筋力トレーニングでは局部的な筋肉を太くしたりトルク(重量を挙げる力)を身につけるのに有効です。

 

一方で競技力に直結しやすいパワー(トルク×スピード)や全身の筋肉の連動性を高めるにはクイックトレーニングの方が有効な場合があります。

 

具体的な方法例

・おすすめ種目:プッシュアップ/プルダウン/スクワット/デットリフト

・おすすめ器具:自重/ダンベル/バーベル/ケトルベル/メディシンボール

・メトロノーム等を利用しタイミングが取りやすく筋力が最も発揮しやすいリズムで行う。

余裕があれば反動を使ったりジャンプも組み合わせてみましょう。

※毎分90~120回で個人差あり

・負荷は重量×速度の二乗なので軽めな重量でも充分な負荷がかかります。

1set12~20repでオールアウトする負荷が目安です。

後半はリズムが維持しにくくなりますが筋肥大に有効なフォースドレップスになっています。

リズムが急激に落ちるポイントがあるので無理せずセット休憩をして下さい。